医業経営情報

石川会計事務所は、医業経営コンサルタントとして、病医院の新規開業と経営改善をご支援しております。

その一環として医業経営者の方々には毎月情報誌を発行しておりますが、当事務所のお客様の取材が掲載されましたのでご紹介させていただきます。

田中ハートクリニック
田中厚志 院長
http://www.myclinic.ne.jp/tanaka_heart/


循環器の専門分野を活かした

プライマリケア医として地域に貢献

平成に20年4月に開業した田中ハートクリニック(愛知県刈谷市)は、循環器疾患の治療を強みに、プライマリケアを実践している。「とにかく患者の話をじっくり聞く」という診療スタイルが、地域の人々の信頼を集め、当初から多くの患者が来院。その数は今でも伸び続けている。
「循環器の得意分野を生かしつつ、幅広い診療に対応することが地域の人々の安心につながる」と語る院長の田中厚志氏に、クリニック開業の経緯やこれからの展望などについて話をうかがった。

患者と触れ合いながら幅広い診療を行うプライマリケア医を目指して開業

──平成20年に開業した「田中ハートクリニック」ですが、その経緯からお聞かせください。
田中もともとは外科医のエキスパートを目指していましたので、浜松医科大学を卒業後、同大学付属病院第一外科に入局し、心臓血管外科医としてそのスキルを学んでいました。
そうしたなか、1つの医療だけを極めていくことに疑問を感じるようになったのです。患者さんと密にコミュニケーションをとりながら治療をしたくても、実際はメスを握るだけの毎日。自分の専門領域では、その知識とノウハウを最大限に生かすことができるのに、他の医療の領域については素人同然で、何も力になってあげられない。
次第に、たくさんの患者さんと触れ合いながら幅広い医療を行うことができる医師になりたいという気持ちが強くなり、刈谷豊田総合病院への異動を契機に、循環器内科医に転向しました。そこで12年ほど臨床を行い、改めて患者さんの身近な存在になることの大切さを実感しました。そして、さらに地域の方々に貢献したいとの想いから、プライマリケア医として、開業を決意したわけです。

──患者さんと密に接しながら医療を行うことにやりがいを感じたわけですね。この場所を開業地として選定したのはどうしてですか。
田中勤めていた病院のすぐ近くだったからです。勤務医時代は1,000人近くの患者さんを担当していたわけですが、近くで開業すれば、私が病院を辞めても継続的に診ることができます。
事業計画では、1日の平均患者数を約30人と設定しましたが、勤務医の時に診ていた患者さんに当初から来院いただき、1日40~50人と計画を上回りました。現在は約60人となっています。
プライマリケア医を目指して開業しましたが、専門は循環器ということで、生活習慣病をはじめ、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、不整脈などの疾患を扱うことが多く、風邪などの急性疾患は少ない傾向にあります。患者層は、40歳以上の中高年の方が中心となっています。

患者増にともなう待ち時間をいかに解消するかが課題

──プライマリケア医として最も心がけていることはどのようなことですか。
田中プライマリケア医にとって重要なことは、「疾患」を診るのではなく、「患者さん」を診ることだと考えています。そのためには、当たり前のことかもしれませんが、患者さんの話をじっくり聞き、その方の社会背景や生活状況などをしっかり把握した上で、治療を行うことが大切です。
患者さんの健康に関するあらゆる相談に親身になって応えることも重要な役割ですので、病気になったことで日常生活に何か支障はないか、他に身体に不調はないか、家族や仕事で悩んでいることはないかなどもお聞きし、抱えている問題があれば、一緒にその解決方法を考えていきます。

──限られた診療時間のなかで1人ひとりの患者さんの話をじっくり聞くというのは、非常に難しいでしょうね。
田中当初は、1人ひとりの患者さんに十分な診療時間をとれていたのですが、患者数の増加とともに難しくなってきました。最近では、待ち時間の問題が深刻化しはじめています。
現在、待ち時間を解消する対策を考えているところですが、その1つとして「電話予約システム」の導入を検討しています。これは、たとえば、患者さんが来院する時に電話をすると、「あなたは○○番です」と当日に予約がとれ、「現在、○○番の方を診察しています」という案内が流れるものです。これなら、患者さんは、診察の順番が近づいてから来院することができますので、必然的に待ち時間も短くなります。
いずれにしても、待ち時間というのは、当院の医療サービスの質に大きく関わってくることですので、早急に改善していきたいと考えています。

──医療サービスの質を担保するためには、地域連携の構築なども非常に重要になると思いますが、これについてはいかがですか。
田中もともと勤めていた病院と密に連携をとっていますので、必要に応じて患者さんをすぐに受け入れてもらえる体制になっています。
また、当院では、心臓超音波検査機器やホルター心電図、運動負荷心電図など、循環器系の検査機器がある程度揃っています。一般に病院でこれらの検査を行う場合、待ち時間が長く、検査をするまでに数日かかることもあります。当院で受ければ早いということで、病院から検査の患者さんを紹介いただくこともあります。
プライマリケア医として開業したのですが、もともとの専門が循環器ということもあり、地域の医療機関からは"循環器専門クリニック"として認識されているようで、近隣の開業医や病院から、循環器疾患の診断の評価を依頼されることもたびたびあります。

在宅医療などに積極的に取り組み地域ニーズに適切に対応していきたい

──現在、どのようなスタッフ体制で経営されていますか。
田中看護師4人、受付事務スタッフ3人、医師1人の計8人体制です。
看護師については、勤務医時代からの知り合いの2人に来ていただき、あとは新聞広告で求人を出して面接で採用しました。受付事務についても、医療事務のベテランを知人に1人紹介いただき、あとは、ある程度経験がある2人を面接で採用しました。
面接では、「人に不快感を与えずに会話ができること」「第一印象が明るいこと」などをポイントにしました。スタッフというのは、患者さんと直に接する重要なポジションです。そこでの対応がクリニックの評判に直接、影響してくるところでもありますので、ここはこだわって慎重に選びました。
スタッフで悩んでいる開業医が多いなか、当院では非常に恵まれていると思います。私から何か働きかけをしなくても、自分で考えて行動できるスタッフばかりです。院内連携もスムーズで、患者さんへの対応もよく、評判も上々です。

──今後、さらに地域の患者さんの信頼を獲得するために取り組んでいきたいことなどはございますか。
田中当院の強みは、循環器疾患の治療という得意分野を生かしつつ、幅広い診療に対応することです。
今後、このプライマリケアの機能をさらに充実していくために、在宅医療に積極的に取り組んでいきたいと考えています。これから外来を長く続けていけば、年をとって通院できなくなってしまう患者さんも増えてくると思います。その時、病院や介護老人保健施設などではなく、自宅で過ごしたいと考える方も多いはずです。そのような患者さんに対して、「在宅はやっていません」などの無責任な対応はしたくありません。現在、3人の患者さんを在宅で診ているのですが、最期の看取りまでを適切に行えるように、訪問看護や訪問介護などへの取り組みを見据えながら体制を整え、そのニーズに応えられるようにしたいと考えています。
また、幅広い診療を行うことができるといっても、循環器疾患以外は、まだまだ力不足のところもあります。そうしたなかで、より患者さんに質の高い医療サービスを提供していくためには、消化器内科医や神経内科医などを非常勤医師として雇うことも視野に入れなければならないと感じています。そうすることが、より地域の方々の安心につながり、存在価値も高まるのではないかと考えています。
このような体制を少しずつつくり上げていき、近い将来、地域の方々のあらゆる健康問題を解決できる、本当の意味で地域に根づいた、信頼されるクリニックになりたいと思います。

──最後に、これから開業を考えている勤務医の先生方にアドバイスなどがあれば、お聞かせください。
田中ほとんどの先生方は、地域のプライマリケア医を目指して開業されると思います。その際、何か1つでも得意分野を持っていたほうがいい。そして、その得意分野に対する設備投資は積極的に行うべきだと考えています。それによって他の開業医と明確に差別化できますし、患者さんに「安心感」を与えることができます。
また、これだけクリニックの件数が増えているなかで安定経営を実現するためには、特に開業場所について慎重に考えたほうがいいと思います。リスクを負って開業することを強く自覚し、少しでも勝算が高いところを選ぶべきです。地の利もない場所に"落下傘開業"するような冒険は避けるべきだと考えています。
自分自身のモチベーションをどのように維持していくかも大切になると思います。開業すると当直がないので身体的には非常に楽になりますが、その分、手術や専門的な医療などからは離れることになります。そうした医療に少しでもやりがいを感じる先生方は、開業すると、想像以上に物足りなさを感じるかもしれません。ただ、その代わり、たくさんの患者さんと接し、いろいろな疾患を診ることができます。これが開業医の一番の醍醐味だと感じています。

「親切・丁寧・笑顔」をモットーにする田中ハートクリニック